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<機関誌「SCOUTING」2022年11月号の記事を本サイトにも掲載しております。内容は機関誌発行当時のものです。>
富士特別野営2022

2022 年夏。初めて近畿圏での開催となった富士特別野営。18NSJの余韻も冷めやらぬ中、日本一の広さを誇る琵琶湖を臨む地に、全国から集結したスカウト15人。豪雨と灼熱の晴天とが目まぐるしく移り変わる中、過酷な自然に仲間と協力して立ち向かった5泊6日の模様をお伝えします。

日 程: 2022年8月14日(日)~19日(金) 5泊6日 会 場: 近江神宮 ~ 高島トレイル ~ 針江地区 ~ 琵琶湖 ~ 仏性野野営場 ~ ボーイスカウト初野営の地
 
はじまり
かるたの聖地である近江神宮に、北は宮城県から、南は福岡県から集いしベンチャースカウト15人。開会式の前に、隊長からスカウト一人ひとりに大会のネッカチーフが授与された。そんな彼らを突然の大雨が襲い、今大会のテーマである「水」を意識させられることとなった。夕暮れ時に、開会式が執り行われ、富士特別野営第1隊が編成された。ライトアップされた楼門に見守られながら、スカウトたちはこれから始まるプログラムへの気持ちを新たにしているようであった。
テーマ
今大会におけるテーマを「水」として、日本最大の湖である琵琶湖を中心としてプログラムを展開した。大会前半の高島トレイルを縦走するプログラムにおいては、生きていくために必要な水の大切さを実感しつつ、トレイルルート上の水場の状況を調査するというミッションを実行した。下山後は、針江地区において、「かばた(川端)」というシステムを見学することを通じて、水環境の保全活動を学んだ。最後に、移動野営の締めくくりとして、琵琶湖で自作の筏を用いて湖上移動した。全行程を通じて、急激な天候の変化に伴う大雨に見舞われつつも、水とともに過ごした6日間であった。
水環境の保全活動
針江地区にて運用されている「かばた(川端)」は、日本国内だけでなく世界からも注目されている水環境の保全システムである。生水(しょうず)という湧き水を各家庭の敷地内に引き込み、炊事や飲料として活用するシステムであり、コイやマスなどの魚に残飯を食べてもらったり、冷たい湧き水を野菜や果物などの冷蔵庫代わりに活用したりと、自然との共生によって成り立っていることを学んだ。スカウトたちは、実際に「かばた」を目にすることを通じて、水を大切にする心を感じ取ったことだろう。  
トレイルプログラム
滋賀県高島市の山々を結ぶ「山の道・高島トレイル」は、太平洋側と日本海側を分ける中央分水嶺の中で東西の中心にあり、さまざまな気候・植生の特徴を併せ持つ類まれなエリアとして知られる。全長80㎞におよぶ「高島トレイル」を4行程に分け、それぞれを3 〜4人の4班に分かれて踏破した。集合日に班ごとに移動計画を立てた後、それぞれのルートに分かれて入山した。山行は、豪雨と快晴とが絶え間なく切り替わる悪天候の中でのものとなった。水場の調査をしながらの山行であったが、多くの水場が干上がってしまっており、水の怖さと大切さを身にしみて実感したことであろう。  
琵琶湖に漕ぎ出す
移動キャンプの最後の難関として、筏による琵琶湖の湖上移動に挑戦した。湖畔にて縛材とフロートを麻紐で組み上げて筏を作成し、個人装備をすべて積み込んだ上で、琵琶湖に漕ぎ出した。天候に恵まれ、穏やかな湖上では、これまでの苦労がすべて吹き飛ぶ程の爽快感を体験したことであろう。どんどん小さくなっていく陸地を横目に、皆で協力してオールを漕ぎ続け、着岸地点を目指した。最後に陸地が迫ってくると、沖に戻される水流を乗り越えて無事着岸に至った。
営火、閉会、解散
多くの先輩スカウトたちが活動してきた仏性野野営場にて、営火を囲みながら、スカウトたちはそれぞれが思い思いに本大会を振り返った。営火の火に見守られつつ、今後のスカウト活動に対して向き合った。最終日の閉会式では、三日月大造・滋賀県知事からのメッセージが読み上げられ、スカウトたちにとってねぎらいと今後の活動を後押しするものとなった。閉会後、スカウトとスタッフ全員で琵琶湖畔にあるボーイスカウト初野営の地である雄松崎に移動し、それぞれの思いを噛み締めた後に、年長隊富士野営の歌を歌うなど別れを惜しみつつ解散となった。  
大塚蒼RS(滋賀、上級班長)
今回の富士特別野営2022は、私にとってとても長いものでした。開催期間は今年の8 月中旬の7 日間でしたが、私と本大会との関わりは2021年3月から始まりました。まず、今回の舞台である「高島トレイル」の下見をする必要がありました。私は滋賀県民でありながら高島トレイルについてよく知りませんでした。スカウトには高度な野営を体験してもらうため、ある程度の困難がなければなりませんが、生命に関わるものがあってはならないため、危険個所や水場などの確認は確実に行いました。大会が近づくにつれて運営スタッフも決まり本格的に始動しました。私も本大会では隊スタッフとして任命を受け、スカウトの行動に関して宿泊場所やルート、プログラム立案へ協力しました。多くのスタッフの方々が時間をかけて富士特別野営を支えてくださいました。ベンチャースカウトにとって多くの学びや感動をもたらすものであったと思います。私は、この経験から自身のスカウティングや後輩スカウトへの指導に努めていきたいと考えます。  
嶌田真音RS(山口、上級班長)
私は今回の富士特別野営に、参加スカウトが充実した“ 富士特別野営”だったと思ってもらえるよう全力で奉仕したいという思いをもって参加しました。今回はスカウトではなく、上級班長として参加させていただくため、役職に恥じないよう、今まで習得した知識や技能を振り返り、存分に発揮できるように準備し、上級班長として参加しなければ学べないことをたくさん吸収したいという考えで臨みました。実際に参加して感じたことは、多くの人の奉仕が当たり前ではなく、有り難いことであるということです。今回の富士特別野営を成功させるために、参加スカウト数を上回る奉仕スタッフのサポートがあり、上級班長として奉仕する立場になって見えたものがありました。また、リーダーシップをとることの難しさや、想定外の出来事への臨機応変な対応など、自分の至らない点を認識する良い機会になりました。今回の経験を糧に新たな課題を克服していきたいと思います。  
吉田汐里RS(東京、プログラム班)
富士特別野営へは3回目の参加でした。2017年はスカウトとして、2019年は上級班長として、そして今回の2022年はローバースタッフとして参加しました。スカウトとして初参加した時には、やや過酷なほど手ごたえのあるキャンプを選抜スカウトたちとやり遂げた「達成感」を、上級班長として参加した時には参加スカウトの傍で励ましアドバイスすることで導く「自信」を得て帰りました。そして今回は私がこれまで富士特別野営への参加で学び得たものをスカウトや上級班長にも感じてほしいと思い、それを陰で支えることを使命として参加しました。実際にローバースタッフとして担ったのは、キャンプ場の整備やスカウトたちが行う筏ルートの下見、筏作成時の指導でした。基本的には縁の下のスタッフですが、筏を結ぶ際にはスカウトと一緒に結び方を確認するなど交流もあり、指導者や運営スタッフも含めた参加者の「絆」を感じることができました。  
若城光希RS(京都、プログラム班)
私がスカウトとして参加した富士特別野営2019は、お互いの表情を見ることが出来て、食事は班の皆で鍋を囲み、大きなテントに寄り合って寝る、そんな当たり前のことができる大会でした。初めて出会うスカウトと組む班で班長を務め、数々の試練を協力して乗り越えながら絆を深め、最後に最優秀班に選ばれたときは達成感でいっぱいになり、かけがえのない仲間たちに出会えた非常に有意義な経験でした。このような素晴らしい経験を後輩にもして欲しいと思いスタッフとして参加することを決意しましたが、今回は班活動に制限が多くスカウトが本来なら出来るはずの経験ができないのではないかと少し心配でした。そうした中で私が心がけていたのは、「スカウトにより多く経験させる」ということです。スカウトが困っていたら代わりにするのではなく、アドバイスをして自分たちで考えさせる。当たり前のことですが、私たちスタッフはスカウトが全力でプログラムに挑めるよう安全を最優先にサポートをする存在だということを忘れずに行動することを心がけていました。今回スタッフとして奉仕して多くのことを学び、また1つ自分を成長させることができました。  
榊原孝治 実行委員長
今回は、富士特別野営が始まって以来、初の地方開催を目指して約4年前から準備を進めて参りました。日本連盟の野営場を開催地とするのではなく、全国からスカウトの参加を促す上で集合しやすく、富士特別野営としてふさわしいプログラム展開ができることを念頭に滋賀県の琵琶湖周辺といたしました。プログラム想定に示しましたように、日本列島の背骨となる中央分水嶺でもある琵琶湖西側の山々を水源とした琵琶湖に育まれた歴史と文化を学び、スカウト諸君の技能を十分に発揮できるプログラムを設定しました。公共交通機関を活用して中央分水嶺沿いにある高島トレイルで4グループに分散して2泊3日の移動キャンプ、針江地区にある「かばた」文化を学習、安曇川河口の北船木入会地でのキャンプと筏作成、筏による湖上移動、最終野営地である仏性野野営場にて営火を囲んでの振り返りを実施展開しました。6日間の不安定な天候にもかかわらず積極的にプログラムへ取り組んでくれたスカウト諸君の達成感に溢れた表情を見ることができました。開催地の滋賀連盟の方々には、多大なるご支援を賜り、プログラム開発およびプログラム展開をサポートしていただきました。そして、全国各地から本プログラムの運営を支えていただいた野営管理班と総務班の皆さま、特にローバースカウト諸君の下見・事前実踏査・パイオニアリングの指導及び野営場整備に尽力していただいたことへ厚くお礼申し上げます。コロナ禍において全国のスカウトを集めた事業であり、多くの制約がある中で、当初の計画より一日短縮した実施でしたが隊スタッフの献身的なご奉仕により、スカウトの満足度は高く、所期の目的およびねらいは十分達成できたことをうれしく思います。  

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2022年11月号にも掲載している内容です

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