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<機関誌「SCOUTING」2022年1月号の記事を本サイトにも掲載しております。内容は機関誌発行当時のものです。>

日本連盟 総裁
御手洗 冨士夫

皆さま、新年あけましておめでとうございます。
今年こそは、人類社会が、およそ100年ぶりに世界を襲ったパンデミックを克服し、新しいスタイルでの社会経済活動を活発化させる年に、ぜひしていきたいと希望します。

1980年代以降、経済のグローバリゼーションが進み、世界の多くの人々に豊かな暮らしをもたらしました。一方で、21 世紀に入り、行き過ぎた株主至上主義などによる弊害もみられるようになりました。その一つが極端な経済的格差の拡大、もう一つが、気候変動問題に代表される経済と地球の生態系バランスの崩れです。新型コロナウイルスの発生も、人類がそれまで立ち入らなかった領域に足を踏み入れた結果によるものといえるのかもしれません。

しかしながら、人類社会は着実に進歩を遂げています。100年前のパンデミックの際は、抗生物質も発見されておらず、患者を隔離するぐらいしか打つ手がありませんでした。それに対して、今回のパンデミックでは、世界中の研究機関や科学者の努力により、新型コロナウイルスという病原体がたちどころに突き止められ、画期的な製法によってワクチンが開発・実用化され、世界各国でワクチンの接種が進んでいます。わが国も、当初は若干の遅れをとったものの、政府と国民の努力により、驚異的なスピードでワクチン接種が進み、今では世界最高水準の接種率を実現しています。さらに、飲み薬などの治療薬の実用化と普及により、新型コロナウイルスはいずれ通常のインフルエンザと同様に、過剰に恐れる必要がなくなることが期待されます。

ただし、新型コロナウイルスが経済活動や人々の生活にもたらした影響は、極めて甚大なものがありました。多くの国々でいわゆるロックダウンが行われ、わが国でも「ステイホーム」を余儀なくされることとなりました。多くの企業では、業務がテレワークで行われるようになり、学生は学校に行けず、友達に会えない期間が長期に及びました。ボーイスカウトの活動も、オンラインで行われるものが増えました。あらゆる組織でデジタル化が急速に進み、実際にやってみると、オンラインでさまざまな活動を行えることがわかりました。一方で、オンラインでのコミュニケーションには、リアルでの対話に比べ、人間的な温かみや、直接話し合うことによる創造性の発揮などに欠けるところがあることは、だれもが痛感していることだと思います。

今ほど、青少年が、大自然の中でチームを作って心身を鍛え、お互いの絆を深めるというスカウト活動の重要性が高まっているときはないといえます。また、経済社会のグローバル化が進んだ現在、今回のパンデミックだけではなく、今後人類社会を襲うであろうさまざまな災厄に対して、一国だけで立ち向かうことには限界があります。国際愛と人道主義を実践し、より良き世界を目指す(Creating a Better World)というスカウト活動の精神が、これからますます重要になっていくことは確実です。

ボーイスカウトの活動では、ごく身近な仲間たちとの関わり合いの中から、自分が好きなことや得意なこと、仲間の役に立てることを見つけ出したり、仲間の考えなどを尊重したり、そしてお互いにチーム全体を良くしていくためにそれぞれの力をより良く合わせることなどを、子どもたち自身が体験しながら自然に身につけていきます。そして世界中に広がるスカウト運動の輪によって、海外の異文化の仲間と友情を築いたり、力を合わせたプロジェクトに取り組む機会も得られます。これはまさにグローバリゼーション時代に有用な人材の素養を育むことであり、日本のスカウト運動が100年にわたって社会に貢献し続けてきた価値なのです。

ボーイスカウト日本連盟の創立100周年は、これまでこの運動を切り拓き、支えてきた諸先輩方のご尽力に感謝するとともに、これから先の100年も変わらず青少年の育成を通じて社会に貢献し続けるという私たちの意志を確かめ合う機会にできればと思います。

そのために、いま目の前にいるスカウト一人ひとりの育成に、懸命に、真摯に、そして楽しく、ともに取り組んでまいりましょう。

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2022年1月号にも掲載している内容です

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