災害支援と奉仕の精神 2011年3月11日14時46分に発生した未曽有の大地震。あれから10年。東日本大震災をはじめとする過去の自然災害時でのスカウトの取り組みを振り返るとともに、これからの未来に向けて、私たちにできることを考えていきましょう。 東日本大震災を振り返る 宮城県牡鹿(おしか)半島の東南東130㎞付近を震源としたマグニチュード9.0の地震は、日本国内観測史上最大規模のものでした。この東北地方太平洋沖地震では、本震によって宮城県栗原市で最大震度7が観測されたほか、北海道から九州地方にかけて各地で震度6強から震度1の揺れが観測されました。その後も多数の余震が観測され、2020年6月に千葉県東方沖で起きたマグニチュード6.1最大震度5弱(千葉県旭市)の地震、同年12月21日に観測した青森県東方沖を震源とするマグニチュード6.5 震度5弱(岩手県盛岡市)の地震に対して気象庁が「東北地方太平洋沖地震の余震と考えられる」との見解を示すなど、東北地方太平洋沖地震はこれまでに延べ500回以上の余震が発生しているとされ、10年経った今なお、自然の脅威を感じざるを得ません。 さらに、3月11日の本震から約30分後には、太平洋岸を中心とした広い範囲に大きな津波が押し寄せ、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉における浸水面積は約535平方㎞(JR山手線内側面積の約8.5倍)にまで及びました。関東では地盤の液状化現象も発生し、マンホールが持ち上がるほどの砂が噴出したり、家屋や電信柱などが倒れたりし、水道、電気、ガスといったライフラインが一時ストップするなどの被害が生じました。 ■ ボーイスカウトが展開した支援活動 災害現地ボランティア 日本連盟では、はじめに宮城県塩しお竈がま市、その後石巻市に独自の災害ボランティアベースを構え、活動を展開。家屋等の泥出しや側溝掃除、道路清掃等を行いました。また、4月29日から6月12日の間、週末に東京~石巻間でボランティア定期便バスを運行しました(非加盟員8人参加)。 ■ 塩竈市内にボーイスカウト活動拠点を設営。 ボランティア活動開始(3/31 ~ 4/10) ■ 石巻市に活動拠点を移設し、ボランティア活動継続(4/10 ~ 9/11) ■ 塩竈市当局の要請により、塩釜湾内の朴ほお島じまで支援活動(4/15) ● 延べ参加人数 : 1,600人 ● 支援した家屋等: 160件 また、福島連盟が開設したいわき市と相馬市のベースにも、多くのボランティアを派遣しました。 友だちパック 岩手連盟所属スカウトの発案で始まり、全国で展開した「友だちパック」。それぞれが想いを込めて用意した文房具とメッセージカードを入れた袋(パック)を被災地域の子どもたちに届けるこのプロジェクトは、パックの作成や仕分けなど、多くの人が自分にできる形で災害支援に関わる活動となりました。 ● 集まったパック総数:1,329個 義援金等の募金 震災直後より、義援金、見舞金、災害支援金等の募金が全国各地から寄せられました。翌2012年1月には、募金等の金額は累計1億5469万3173円となり、その後、現在も継続して、多くの方からご厚志が寄せられています。 ● 被災者・被災地への義援金: 111,277,255円 ● スカウト関係者への見舞金: 14,556,644円 ● 災害活動支援金: 2,913,044円 ● その他(寄付金、助成等含む): 25,946,230円 ※ 2011/3/13~2012/1/17集計 これらは、東日本大震災における災害支援活動の取り組みの一部です。このほかにも全国各地でさまざまな支援活動が展開されました。 スカウトと災害奉仕 これまで、災害発生時等にさまざまな支援活動を行ってきたボーイスカウト。その始まりは、1923(大正12)年に発生した関東大震災です。神奈川県相模湾を震源として発生したマグニチュード7.9の大震災は、190万人が被災し、10万5千人余が死亡あるいは行方不明になったとされる日本災害史上最大のものでした。このとき、震災救援と復興の責任者となったのが、内務大臣兼帝都復興院総裁であった後藤新平でした。少年団日本連盟初代総裁(のちに総長就任)の後藤の呼びかけもあり、帝都復興奉仕作業には数多くのスカウトたちが加わったのでした。 各地のボーイスカウトが支援活動を行った自然災害(一部) 東日本大震災では、震災直後の停電の中、スカウトの制服を着て交差点に立ち、手旗で交通整理を始めたベンチャースカウトや、避難所生活の中で大人に混ざって清掃や配給の手伝いをするボーイスカウトの姿もありました。自分自身がたとえ困難な状況にあっても、誰かのために自分にできることを当たり前に行う。これは、日ごろからスカウトとしてのつとめを果たすことが自然と身についていたからこその行動でしょう。災害支援は、現地での泥かきや救援物資の整理等を行うなどの直接的な方法もあれば、被災地と離れた場所から募金等を行う方法もあります。どちらも重要な支援です。 募金活動などを行う際には「ボーイスカウトなら信頼して託せる」と声をかけられたことがある方も少なくないのではないでしょうか。日ごろから活動している様子が見えることで、地域の中にボーイスカウトが広く認知されていれば、いざというときにも信頼して受け入れていただきやすくなります。このような面からも、普段から地域に根差した活動をすることが大変重要です。 防災教育とスカウト活動 東日本大震災を契機に、文部科学省が防災教育・防災管理等の見直しを行い、子どもたちの発達段階や地域の実情に応じた防災教育の目標を定めました。目標には、各段階における【知識、思考・判断】【危険予測、主体的な行動】【社会貢献、支援者の基盤】といったポイントが掲げられています。自然を教場としているスカウト活動では、常に緊張感をもって活動に臨み、いかなる状況でも自らが率先して考え、動けるように日ごろから準備しておくことが重要です。スカウトが活動を通じてさまざまな知識や技能、心構えを身につけられるよう、引き続き支援していきましょう。 ■ スカウト活動を通じて チャレンジ章「災害救助員」と技能章「防災章」 カブスカウトはチャレンジ章「災害救助員」、ボーイスカウトとベンチャースカウトは技能章「防災章」の取得を通じて、いざというときに向けた普段の「備え」がいかに重要であるかを学ぶことができます。特に、2019年に新設した「防災章」は、自然災害の多い日本において、スカウトが自然災害に対する知識を高め、自らの命を守るとともに、地域社会にどのように貢献すべきかを理解し、実践する能力を高めることを目的としています。また、この章に挑戦することによって、将来的に防災関連の資格を取得することにつなげられる内容になっています。 全国防災キャラバン 東日本大震災から5年の節目を契機に、2016年から、全国のイオンモール等を会場に「全国防災キャラバン」を展開しています。このキャラバンでは、地域の防災意識や子どもたちの「備える力」の向上を目指し、スカウトスキルの体験を通じた「防災教育」を行っています。これまでに実施した多くの会場では、次世代を担うスカウトたちの活躍によって、地域の子どもたちが楽しみながら防災について学び体験する機会を提供しています。2020年度は新型コロナの影響により、各会場での実施はできませんでしたが、2021年度も引き続き地域行政等との連携の輪を広げながら、スカウトによる防災の普及を推進していきましょう。
2013年全国大会(香川)でのスカウト防災宣言
ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2021年3月号より