ボーイスカウトの地域貢献活動を
スカウト募集に結びつける
~「ワクワク自然体験あそび」の実践から見えてきたもの~
ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年9月号(No.739)、11月号(No.740)でもご紹介した「ボーイスカウトとあそぼう! ワクワク自然体験あそび」事業(以下、自然体験あそび事業)が、新型コロナウイルスの秋から冬にかけての感染拡大の影響を受けながらも、全国各地で実施されました。今号では、本事業の実践から、私たちが地域に貢献できること、そこからスカウト募集にどう活かすかといったポイントをご紹介します。
開催予定と実績
全国373会場で累計9,040人が参加しました(2021年1月21日時点)。
参加者の事前アンケートから見えてきたこと
❶ この自然体験活動を何で知りましたか?
❷ 自由記述欄から
この事業に保護者が望むもの
● 感謝の気持ちを身につけてほしいと思っていました。今回、チラシを見て「これだ!」と思いました。
● 諦めない心、仲間とやり遂げる達成感を味わえる体験ができればと思っています。
● ひとりっ子なので、家族以外と関わる機会をできるだけ多くもてたらいいなと思っております。
● なかなかできない経験なので、自然の中で他の子どもたちと遊びを楽しんでほしい。
保護者のニーズが分かれば、それをプログラムに反映させ、チラシのキーワードとして使うなどの工夫ができます。子どもはもちろんのこと、保護者も訴求ターゲットであると意識することが大切です。また、「自然」は保護者にとって訴求力の高い言葉であるといえます。プログラム名やチラシの写真などから「自然」を想起させることが効果的です。
もともとボーイスカウトに興味があった保護者
● ボーイスカウトの活動に興味があるので、お話を聞きたいです。
● 以前から、ボーイスカウトに参加させたいと思っていましたが、習い事を整理できずに、きっかけを探していました。
多くの団が学校等を通じてチラシを配付できたことから、より多くの家庭に案内を届けることができたと思われます。その結果として、「ボーイスカウトに興味はあるが、自ら積極的に情報を得ようとまではしない」潜在的需要層を掘り起こし、体験活動への参加に誘導することができたと考えられます。体験活動の場では、スカウティングの理念等とともに、自隊の活動予定を説明することが大切です。
今回のような自然体験活動を望む保護者
● 今後、自宅近くで今回のような行事があるときは、何らかの形で連絡がほしいです。
● 季節ごとにイベントがあると、気軽に参加しやすいです。
● この度は、素敵な機会をいただき、嬉しく思います。
自然体験活動こそが私たちにできる地域貢献と考え、このような活動を定期的に行うことも大切です。団委員会の任務には、「本運動の主旨の普及に努めること」があります。この事前アンケートでは、「あなたがお住まいの街で、ボーイスカウト(の活動)を見かけたことがありますか」という質問がありますが、実に59.50%の方が「見かけたことがない」と答えています。このような状況では、まず、地域の方に「私たちの街にもボーイスカウトがある」と認識してもらうことが重要です。地域にスカウティングを広く普及することが、加盟員を増やす第一歩になります。
取り組み事例から考える、体験活動のポイント
これまでに実施した各地の取り組みの中から、2 つの体験活動の実施事例をご紹介します。それぞれの体験活動におけるポイントをまとめましたので、今回の自然体験あそび事業だけでなく、普段のスカウト募集体験会などを行う際にも、ぜひ参考にしてください。
事例1
愛媛県連盟西条地区西日本最高峰の石鎚山(いしづちさん)の麓に広がる愛媛県西条市で開催した「親子で楽しむアウトドア体験」は、西条地区の多くのスカウトと保護者、指導者、地区役員が体験活動のスタッフとして関わっていました。早朝からの準備や運営にもかかわらず、誰もが最後までイキイキと楽しそうに動き回っている姿に、「体験活動の印象はスタッフ一人ひとりが作っている」と強く感じる活動でした。この活動からは、企業との連携やスカウト中心の運営などをご紹介します。活動名: 親子で楽しむアウトドア体験(1日型)
実施日: 令和2年11月22日、12月6日、12月13日
会 場: アウトドアオアシス石鎚
株式会社モンベル(以下、モンベル)が運営する西条市のアウトドア拠点施設
地域資源の有効活用①
“会場の立地と交通利便性”会場であるアウトドアオアシス石鎚は、松山自動車道のサービスエリアに隣接するハイウェイオアシスにあり、市街地を見渡せる自然豊かな丘陵地でありながら、高速道路からも一般道からもアクセス可能な交通利便性を兼ね備えています。さらに交通利便性に加え、駐車場の広さ、活動の安全性、周辺の環境、場所の知名度など、「集客」を意識した会場の選定がなされていました。
地域資源の有効活用②
“企業とのタイアップ”アウトドアオアシス石鎚は、モンベルが指定管理者として運営している西条市のアウトドア拠点施設です。ここを会場にすることで、活動計画の段階からモンベルと話し合いを重ね、実施プログラムにボルダリング体験施設を活用することやモンベル社員によるテントの組み立て体験コーナーを設置するなど、「社会連携」を意識した企業タイアップが積極的に行われていました。
スカウトを中心にした運営司会進行や受付、グループのリーダーといった参加者から見える主な役割は、ローバースカウトを中心にベンチャースカウト、ボーイスカウトが担当し、成人指導者は裏方に徹する運営が行われていました。開会セレモニーでは、リーダー役のローバースカウトが着ぐるみで登場するなど、参加者の緊張感を和らげ、プログラムへの導入が円滑に行われるように工夫されていました。また、閉会セレモニーでは、参加者と活動をともにしたローバースカウトが自らのスカウティング経験を話す時間を設けるなど、スカウティングの魅力をスカウト自身の言葉で伝えるといった保護者を意識した工夫もあり、保護者の視点に立った「見せ方」を意識した運営になっていました。
新型コロナウイルス感染症対策1回の参加定員を抑制したうえで、2020年11月から12月までの間に、同じ内容の体験活動を計3 回実施。参加者を各日それぞれ2~3グループに分け、グループがそれぞれ異なるプログラムに挑戦してまわることで、人を分散して密を避けるという感染予防策をとりつつ、参加人数を確保するという工夫が見られました。また、当日の受付においても、「手続き ⇨ 健康観察 ⇨物品の受け渡し」等の一連の受付業務をワンストップ方式で行うなど、他の参加者との接触機会を最小限に抑える「安全・安心」を意識した感染対策が随所に取り入れられていました。
事例2
岡山連盟西大寺第1団穏やかな冬晴れの下、岡山市の操山(みさおやま)公園里山センターで開催された西大寺第1団による「親子でハイキング」。年代ごとに分かれて行う体験プログラムや、子どもと同じプログラムを保護者にも提供するといった工夫などをご紹介します。活動名: 親子でハイキング(半日型)
実施日: 令和2年12月6日
会 場: 操山公園里山センター
時間の有効活用と親しみやすいセレモニー受付開始前から、指導者とスカウトがゲームをして楽しい雰囲気を作り、参加者を迎えていました。受付後からセレモニーまでの間は、何もしないただの待ち時間になっているケースをよく目にしますが、ここでは、受付後に参加者がゲームに加わることで、飽きさせない工夫がされています。また、セレモニーはローバースカウトの進行のもと、国旗儀礼やソングは行わず、親しみやすい雰囲気で参加者を緊張させない配慮がなされていました。
ビーバー、カブ年代に分かれて活動体験活動では、年代を問わず、同じプログラムを提供している団が多い中、西大寺第1 団では、部門別にプログラムを用意していました。ビーバー部門は、広場で隊指導者が山をモチーフにした絵本の読み聞かせを行った後、操山へ。ゲームや自然観察、木の枝や葉っぱなどを拾ったりしながらハイキングを楽しむプログラムでした。その後、集めた自然物を使って「どんぐり迷路」を作り、体験活動のお土産にする工夫がみられました。これは、帰宅後でも体験活動が必然的に親子間の話題となるという点において、効果的な手法といえます。カブ部門では、スカウトの組に参加者が加わり、操山にハイキングへ。テーマは「観察」です。人工物キムスに挑戦したり、鳥の声や自然の音に耳を澄ませたりしながら進みました。途中のバードコール作りでボーイ隊のスカウトが本結び等を教えたり、カブスカウトと参加者が協力して暗号を解読したりと、スカウトと参加者がコミュニケーションをとる場面を意識的に数多く用意していました。これは、参加者が「また、参加してみたい!」と思う1つの大きな要素になります。
保護者にも子どもと同じ体験活動を提供保護者だけのグループを作り、保護者にも子どもたちと同じ体験を提供していました。ハイキングの合間には、隊指導者が「キムスゲーム」のねらいを説明するなど、「ミニボーイスカウト説明会」にもなっていました。これは、保護者にスカウティングの魅力を伝える効果的な手法といえます。また、この保護者グループが自身の子どもが参加している組のすぐ後ろを歩くことで、子どもには自分の親の姿を近くに感じられる距離で安心感があり、保護者には自身の子どもの活動する姿が見られるようになっているため、両者に配慮した手法になっています。
入団に結びつけるために大切なアフターフォロー体験活動の終了後、体験活動を評価・改善するために感想などを聞く「保護者アンケート」を実施していました。参加した保護者の生の声を聞くことは、さらに体験活動を良くするために欠かすことのできないものです。このアンケートには「今後、活動の案内を希望しますか」という項目もあり、希望者には引き続き案内できるように布石を打つなどの工夫もみられました。
団支援・組織拡充委員会が考えるポイント
ここまで、2つの活動事例から8つのポイントをご紹介してきましたが、団支援・組織拡充委員会が考えるポイントをさらに3つご紹介します。
「スカウト運動普及のため」にするか、「新規加盟員獲得のため」にするかよく「体験活動を実施したが、入団に結びつかない」という声を聞きます。繰り返しになりますが、地域にスカウティングを広く普及することこそが、加盟員を増やす第一歩になります。「私たちの街にもボーイスカウトがある」と地域の方に知っていただくためには、地域のイベントを活用するなどして、できるだけ多くの子どもを集め、楽しんでもらうことが重要だと思われます。一方で、新規加盟員を獲得しようとするとき、 スカウティングの素晴らしさや教育的意義を参加者( 特にその保護者)に理解してもらうことが大切です。そのためには特別なことをする必要はなく、 普段の隊集会どおりのことをする方が、スカウティングの魅力を伝えることができるはずです。実際には、この2つのバランスが大切になってきますが、同じ体験活動を実施するにあたっても、どちらに軸足を置くかを最初にしっかりと検討しておく必要があります。
「スカウト運動普及のため」に本事業を実施する場合の留意点「スカウト運動普及のため」の自然体験あそび事業であっても、可能な限りスカウティングの特色を活かしたいものです。例えば、プログラムの参加は親子よりも子どもだけの小グループ、活動内容はひとり遊びのゲームよりもみんなで力を合わせて取り組むゲームの方が望ましいと思います。また、参加者とスカウトがコミュニケーションをとれる状況を作ることも必要です。ただし、参加者の中にはさまざまな個性をもった子どもがいるので、個々の特性に応じた配慮が必要になることはいうまでもありません。
1つの学校等に対して個別に複数の団がチラシの配付を依頼しない今回の自然体験あそび事業では、原則として、日本連盟提供の共通フォームを利用してチラシを作成 していただきました。これは、「ボーイスカウト」のブランディング効果をねらったものですが、複数団からチラシの配付を依頼される学校等の立場からすると、「ボーイスカウトがほとんど同じチラシの配付を何度も依頼してきた」という印象をもち、不信感を抱きかねません。そこで、配付先が同じ学校等になりそうな団と実施日を近接した時期にするなどの調整をし、チラシを1枚に集約するなどの工夫も必要です。あわせて、学校等の負担を軽減するために、チラシはクラスごとに束ねておくなどの配慮も必要になります。
2021年度の自然体験あそび事業
2020年度の自然体験あそび事業は、文部科学省からの委託事業として、必要経費の全額を国庫委託金 で執行しました。文部科学省からはまったく同じメニューは示されていませんので、2021年度に今年度と同程度の規模で本事業を行うことは難しいと考えています。しかし、団にとっては事務の軽減になること、参加する保護者からは一目でボーイスカウトが全国規模の団体と分かり、安心感を得られることなどのメリットがあることなどから、体験活動の参加申し込みサイト(QRコードを用いての申し込みなど)については、2021年度も日本連盟の経費で継続したいと考えています。
団支援・組織拡充委員会では、全国の皆さんとの協働により、スカウト運動の普及と新規加盟員獲得に取り組んでいきますので、引き続きご協力をお願いいたします。
ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2021年3月号より