■ 野外活動のための安心・安全講座
“思いやり”のある組織・チーム作り
今回は、組織の人材開発を行っている荻野淳也氏の著書(末尾参考文献)を参考に、「思いやり、信頼できるチーム作り」について考えます。Google社が、「生産性が高いチームが持つ共通点」について、社内180のチームを対象に調査しました。以下の①~④は調査員たちが予想していた結果です。
① 優秀な人材がそろっている
② カリスマ的なリーダーがいる
③ チーム構成の良さ
④ メンバー同士が頻繁に食事を共にしている
しかし、実際の結果は①~④のどれでもなく、“ チームの中に「心理的安全性」がある” ということでした。これは、チームの中に不安や恐れがなく、お互いの個性を受け入れて信頼し合うことができ、安心して自分らしくいられるということです。常に生産性や成果が求められるGoogle社のような組織でさえ、最も重要な要素は“思いやりのあるチーム”だったのです。荻野氏は、思いやりと信頼に基づいたチームになるための4つのステップを、著書の中で示しています。
1.「気づきの力」をトレーニングする
出発点のStep1気づきの力とは、「今、ここにある自分の心と身体の状態にしっかりと気づく力」のことです。例えば、私たちは「イラっとして誰か(モノ)にあたってしまう」ことがありますが、これは「イラっとする」という感情と、「誰か(モノ)にあたる」という行動が自動的に1セットになっている状態のようです。気づきの力とは、イラっとしたときに「あ、今自分はイラっとしたな」としっかり気づいて、これに注意を向けることができる能力のことです。
まずは、Step1 気づきの力のトレーニングから始めてみましょう。
1 自身の感情や身体の状態に注意を向けて観察する
自身の感情に気がつくと同時に、身体のどの部分にどのような変化が生じているか(心臓がバクバクしている、頭に血が上っている、息が荒くなるなど)にも注意を向けて観察してみます。
2 観察したものを評価せずに、あるがままに受け止める
「イラっとしてはいけないな」などと評価したり抑え込んだりせずに「あ、今自分はイラっとしたな」と、あるがままに受け止めます。このトレーニングを続けることで、注意力と集中力が身についてくるということです。すると、Step2の自己認識力や自己肯定感が高まっていき、行動の手前で立ち止まることができるようになり、これによってStep3の共感・コミュニケーション力の向上、Step4の思いやりのあるチームの実現へとつながっていきます。簡単なようですが、私たちの心には過去の後悔、未来の心配、不安などの思考がいつもめぐっているため、今この瞬間に自身に起きていることに対して、常に注意を向けるということが難しいのです。そのため、気づきの力は筋トレと同様に、日々のトレーニングが大切です。
2. やってみよう!「気づき」のお天気ワーク
下記は、いつでも個人でもできるワークです。組集会や班集会などの始まりに取り入れてみてはいかがでしょうか。参考にしてみてください。
ココロのお天気観察ワーク: 今の自分の中のお天気は?
方法 |
- みんなで向かい合って輪になる(立位でも座位でもOK)
- 自分と向き合う静かな時間を作る(1分くらいでOK)「今の自分の中のお天気はどんなだろう? それはなぜだろう?」
- 仲間と伝え合い、共有する(伝えられる範囲でOK)
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知っておくべき大事なポイント |
- 天気は刻々と変わるもの。雨の日もあれば晴れの日もあり、突然の雷雨もある。自分の心の中のお天気も同じであることを知ろう。
- 今の心の中のお天気に対して、否定や評価をしたり無理に変えたりしようとせずに、あるがままに受け止めてみる(自分のことも仲間のことも含む)。
- うまく表現できなくてもよい。自分の心のお天気をうまく表現したり決めたりできなければ、それをそのまま伝えればよい(「なんだか今日はうまく表現できない」でOK)
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指導者の方へ |
自身の状態をお天気で伝えるというのは、簡単なようで難しいことです。何も伝えられないで終わってしまうと、落ち込んでしまうかもしれません。そのような場合には、お天気のほかに「今日の自分の決意や願望」として、活動の中で意識したい「おきて」や「やくそく」を1つ選んで仲間に伝えるというワークを一緒に行ってみるのもよいと思います。 |
「セーフ・フロム・ハーム」・安全委員会
マインドフルネスについて興味をもった読者の方は、下記参考文献をご参照ください。
【参考文献】
荻野淳也著『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる ― 脳科学×導入企業のデータが証明!』(かんき出版)
スーザン・カイザー・グリーンランド著、大谷彰監訳、浅田仁子訳『マインドフル・ゲーム 60のゲームで子どもと学ぶマインドフルネス』(金剛出版)
ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年11月号より