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  現在の「おきて」は、検討期間4 年を経て1987( 昭和62)年度年次全国会議および理事会での承認をもって、従来の12項から8 項へと改正されました。すでに30年以上も前のことではありますが、現在も私の心の中で忘れられない記憶の一つをお話ししたいと思います。   永遠のスカウト 1990(平成2)年ごろ、まだIT 関連会社の営業職社員であった私は、アメリカ合衆国アトランタのソフトウエア会社が販売しているCMS(キャッシュ・マネージメント・システム)を日本の銀行市場に展開しようと、その会社と販売提携を結びました。その後、日本のあるメガバンクにCMS の導入が決まり、提携先企業の副社長とシステムエンジニアの2 人が納入作業のために1週間ほど来日してハードウエアにソフトウエアをインストールする最終作業を行い、無事にすべての作業を終了して検収を終えた最終日の夜、打ち上げの会を行いました。 その中で、私が日本のボーイスカウトの指導者であること、そして、ソフトウエア会社の副社長がボーイスカウトアメリカ連盟のスカウト経験者でイーグルスカウトであることを、互いに知りました。アメリカでは、イーグルスカウトを紹介するとき、「He was an Eaglescout.(過去形)」ではなく「He is an Eaglescout.(現在形)」というそうです。そして、アメリカ連盟がよく使う言葉に、「Once anEagle, Always an Eagle.(一度イーグルスカウトに進級したら、常にイーグルスカウトである)」という言葉があります。過去のスカウト時代だけではなく、現在も、いつでもイーグルスカウトであるということを表しています。 驚いたのは、彼がスカウト活動から20年以上も離れていたのにもかかわらず、3つの「ちかい」と12の「おきて」をスラスラと暗唱したことでした。日本で富士スカウトに進級して20年ほどスカウト運動から離れていた人が、果たして同じように「ちかい」と「おきて」をスラスラと暗唱することができるでしょうか。アメリカ市民として、そして社会においても「ちかい」と「おきて」が日常生活の中に生きていることの証なのだと、その時ハッと考えさせられました。 また、そのこと以上に私が考えさせられたことがありました。それが「おきて」についてです。 当時、日本では「おきて」が12項から8項に改正されたのでした。その副社長に「日本のボーイスカウトも以前はアメリカ連盟と同様に12の『おきて』であったが、数年前に12項から8項に改正をした」ことを伝えました。すると副社長は、どの項目がなくなったのかと聞いてきました。 「LOYAL・忠節を尽くす」「HELPFUL・人の力になる」「OBEDIENT・従順である」「CLEAN・純潔である」「REVERENT・つつしみ深い」の5項がなくなり1項が新設されたこと、削除した項目の意味は改正後の8項の中にも含まれていること、また現代( 当時)の子どもたちには理解しにくい難解な言葉である、等々の理由で8項に改正したのだと話しました。 すると彼は、「今の日本人そのもののようだ」と言い切りました。世界に対して「忠節は尽くさない」「他の人に力を貸さない」「世界のルールには従わない」「政治家はクリーンではない」。このことを聞いて、当時の私は反論ができませんでした。日本人が世界からこのような目で見られているのかと思うと同時に、自分の説明が足りなかったかもしれないと、情けなくなりました。   「ちかい」と「おきて」 3つの「ちかい」は、スカウト運動の原理であり、世界共通であり、各国の言葉で表されています。また、「おきて」は3 つの「ちかい」を実現するための日々の生活における行動の指針を示しています。 ここでは、項目の削除や変更が良いことか悪いことかを論じているわけではありません。そのことを考えられるのは、12 の「おきて」で過ごしてきた当時のスカウトであり指導者たちです。 ただ、言葉が今風ではないとか、難解で理解できないとか、理屈は何でも考えられますが、ともあれ初級スカウトは、まず「『ちかい』と『おきて』が言える」。要は、丸暗記することができる。その後、2 級スカウトを経て1 級スカウトに進級するころには「ちかい」と「おきて」の意味が分かり、月日を経るに従い徐々に身につけ、理解することができ、日常生活で実践して模範を示すことができるようになる。 このようにスカウト時代の進級とともに「ちかい」と「おきて」を実践できるよう段階的に身につけていき、大人になっても知らず知らずのうちに実践できている。そのことが市民として、社会の中で模範を示し、良い社会人として社会に貢献することに繋がっていくものだと思います。 改正が施行された1988(昭和63)年以降のスカウトや指導者たちは、今示されている8項目の「おきて」をいつでも暗唱でき、日々実践することによって、日々の生活の中にスカウトの「ちかい」と「おきて」が生きていることを、社会に示していきましょう。それこそが、スカウト運動に関わっている我々の使命であると思います。

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年1月号より

 

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