「原点回帰」を 福嶋正己 日本連盟コミッショナーに聞く ――― 日本連盟コミッショナーとして、どんなスカウティングを目指していきますか。 福嶋 最近、全国の活動を見ていて思うのは、ボーイスカウト最大の特長であるはずの「青少年の、青少年による、青少年のためのスカウティング」になっていないのではないか、ということです。指導者が考えた活動をスカウトたちに与え導くのが大人の役割だと勘違いし、スカウトたちの自主性を重んじなくなってはいないでしょうか。大人の役割として安全を確保することは大切ですが、スカウトたちが「楽しい、有意義だ」と思う活動を自分たちで構築していくことが基本です。ボーイスカウトのパトロール・システム( 班制教育)はそれを実践するための仕組みです。2020年度の事業計画では、新規加盟スカウトの獲得、中途退団抑止、若手の後進育成を3つの成果目標としています。活動が楽しければ、新しく仲間になる新規加盟者は増えますし、中途退団するスカウトも減ります。その魅力ある活動を作り、支える若い指導者を育てることが重要だと考えています。 ――― ボーイとベンチャーの一体化を始めましたが、ビーバーとカブも入隊や上進時期の見直しを進めようとしています。 福嶋 ビーバーの入隊年齢を幼稚園の年長にまで引き下げようと考え、実証実験を続けてきました。これにより、入隊者が増えるなどの成果が確認されています。ただし、地域性や団の方針による柔軟な運営を認め、ビーバーは幼稚園年長から小学1 年生までの1年から2年、カブは1年生から4年生までの3年半から4年の期間とし、ボーイへの上進を小学5年生からにしたいと考えています。中途退団が多いのは、カブからボーイへの上進時期だということが鮮明に調査結果に出ています。中学受験の1年前に上進するかどうかを聞かれて辞めてしまうというケースが多い。まずは上進し、受験するスカウトは休隊して、合格したらスカウティングに戻ってもらうという流れを作りたいと思います。2022年には実施したいのですが、異論も多くあるので、よく意見を聞きながら進めていきます。 ――― 魅力あるスカウティングとはどういうものでしょうか。 福嶋 スカウティングの基本は野外活動です。5泊6日のキャンプを中心に据えるようお願いしています。指導者が休めないから無理だという声も聞きますが、スカウトが自分たちで企画立案したキャンプならば、ひとりの指導者が全日程いられなくても、交代で安全確保さえできれば良いのではないでしょうか。全国にはローバーが中心になって指導するなど、12泊のキャンプを行っている隊も複数あります。 ――― 奥島孝康理事長が、「もっと野外へ」と言い続けてきました。 福嶋 隊長が先生になって技術を教える、学校のような活動になっていないでしょうか。もっと野外に出て行って、実践の中で、必要性に迫られてロープ結びを覚え、手旗信号を使う。登山用具は進化しているのに、ボーイスカウトが使うロープは50年前と同じ。人命救助にはあまり役に立ちません。もっと実践的なロープワークなどを体得できるようにすれば、スカウトたちも面白がって覚えるはずです。 ――― より魅力的な活動を提供するには、指導者のレベルアップが必要です。 福嶋 まずはコミッショナーです。昨年亡くなった緒方貞子さんは、国連難民高等弁務官(UN High Commissioner for Refugees)でしたが、なぜ紛争地域や難民キャンプの現場に足を運ぶのかを聞かれ、「実情を把握して支援するのがコミッショナーの役割です。だから私は現場に行くのです」と答えていました。コミッショナーという役務は、こうあるべきだと思います。団の実情を把握し支援するのが県連盟コミッショナーや地区コミッショナーの役割です。年に2回、団を訪問してそれぞれの団の健康診断を行なってください、とお願いしています。団担当コミッショナーを置く余力がないという声も聞きますが、これは県コミ、地区コミの役務を分掌する役割なので、人的余裕のないところは県コミ、地区コミ自身が団訪問をすることになります。また、指導者のスキルアップを進めるために、ラウンドテーブルを強化する必要があると考えています。米国のようにラウンドテーブル・コミッショナーを置くことも議論したいと思います。 ――― 地方の場合、「大県連盟のような組織運営ができない」という声もあります。 福嶋 それぞれの地域で実情に合わせたスカウティングを展開してもらって構わないのです。しかし、それをできるのはコミッショナーです。私に相談のうえ柔軟に対応していただきたいと思います。 ――― ボーイスカウト活動の柱の1つである班制教育(パトロール・システム)が機能しなくなっています。 福嶋 スカウト数の減少もあり、複数班が作れない隊が増えています。基準の人数に達しない場合、班制教育をどう運用していくのか、その場合のプログラムはどうあるべきなのかをプログラム委員会に考えてもらい、全国に発信します。 ――― 進級制度や技能章などのバッジシステムも機能不全です。 福嶋 技能章のひとり平均取得数は1.2個、ベンチャーでも8割のスカウトが2級止まりという調査結果があります。高度な野外プログラムを展開する「富士特別野営」を開催し、富士スカウトを目指すスカウトを増やそうとしています。今年度は2021年3月に実施予定です。また、大和の森 高萩スカウトフィールドに常設プログラムを開設し、6泊7日の長期野営を行いながらさまざまな技能章が取得できるような場を作りたいと考え、プログラム委員会や指導者養成委員会など関係委員会で構想を固めてもらっています。 ――― 活動の質という意味で、セーフ・フロム・ハームの重要性が増しています。 福嶋 性的虐待に関する事件が3件ありました。当該指導者には除名などの処分を行う一方、スカウトを指導する際は複数の指導者があたるバディシステムを導入するよう通達を出しました。子どもをターゲットにする人物がスカウト組織に入り込まないよう、指導者の任命にあたっては、今後、より厳格にしていく必要があります。また、スカウトの前で喫煙しない、酒についても活動中は一切飲まないというルールを厳格に適用します。教員の飲酒が大問題になるなど、教育活動中の禁酒は世界的な潮流でもあります。大会の場合、入場から退出まで飲酒は許されません。ルール違反は即退場です。飲みたければ、日と場所を改めて大人だけで慰労会を設ければ済む話です。 ――― SDGsをスカウティングの中でどう実践していくかも課題になっています。 福嶋 SDGsの取り組みについては、新しいことや特別なことをしなければいけないのではなく、これまでも実践している社会奉仕や国際活動、地域や諸団体との連携といったスカウト活動が、SDGsで達成すべきどの項目に当てはまるのかということを、スカウトや指導者それぞれが考えてみることが最初の一歩になります。これらは、みんなで取り組んでいくべき課題として理解し、さらに活動を活性化できるように取り組んでいくことが大切です。 ――― 指導者の若返りも重要です。 福嶋 佐野専務理事のお話にもあったとおり、女性や若い指導者に参画してもらいます。指導者養成委員会は「公募」するそうです。若い指導者に活躍していただく機会を提供したいと思います。コミッショナーも着実に世代交代していきます。副コミッショナーの中からコミッショナーに就任するという流れを作ることで、継続性を重視したいというねらいがあります。2年後には次のコミッショナーの候補者を選びます。これは、国際機関などでしばしば使われている手法です。私はコミッショナーとして今後2年、日本のスカウティングのために全力投球します。 (聞き手:理事/前社会連携・広報委員長 磯山友幸)
ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年5月号より